お口に関する話

高齢者と歯科

高齢者には老人特有のからだの変化があり、そのために特徴的にむし歯になりやすいところがでてきます。また、歯科治療においても、体調の変化を常に考えながら進めていくことが必要なのです。心配事や不安なことは、是非気軽に担当の歯医者さんに申し出て下さい。

Q「嚥下障害」というとどのような症状があるのでしょうか?
A介護が必要な高齢者を対象にお話しします。食事中にうまく飲みこめない、頻繁にむせる、口から唾液や食べ物がこぼれる、食事に時間がかかるようになる、体重が減少する、食後口の中に食べ物が残るようになる、原因不明の微熱が続く、声や息がガラガラする、このようなことが嚥下障害を疑うサインです。
Q「嚥下障害」はどうして起きるのでしょうか。
A加齢や脳卒中などが原因で感覚や運動機能が落ちたり麻痺が生じると、嚥下の反射が起こりにくくなったり、口の中で食べ物をうまくまとめられなくなったり、食道の方へうまく運べなくなるという問題が生じます。水のように一気に喉に落ちるものにタイミングを合わせて嚥下ができず喉の奥に溜まり溢れて気管に入ってしまいます。これを誤嚥といいます。どなたでも話しながら食事をしたり、急いで食事をしたときに気管の方に物が入り咳きこんだことがあると思います。苦しいですよね。
Q「嚥下障害」になるとどんな問題が出てきますか?
Aむせて、自分の力で誤嚥を防いでいるうちはいいのですが、むせもせず、無自覚のまま誤嚥が続き、口の中の細菌がいっしょに気管を通じて肺の方へ送られるのが問題です。微熱が続いたり、頻繁に肺炎を起こすようになります。これを誤嚥性肺炎といって要介護高齢者の死因の一つです。日ごろの口腔ケアで口の中の細菌を減らしておくのも重要です。
Qどうしたら防げるのでしょうか?
A足や腕の筋肉を動かさずにいるとだんだん衰えますね。それは口、顎、頬、喉の筋肉も同じです。おいしい食事がいつまでも食べられるように口の運動を生活に取り入れてみましょう。
また、高齢者の方はいろいろな薬を服用しています。これらの薬の副作用の一つに口の渇きがあります。唾液(つば)が少なくなります。物を飲み込むのに唾液は重要な役目をしますので、日ごろからよく噛んで食事をしたり、唾液腺のマッサージなども有効です。
Qでは実際に「嚥下障害」で悩んでいる場合はどんなことに気をつけたらよいでしょうか?
Aまず食事の時の姿勢が大切です。気管が前方にあり開放していて、食道が背中側にあり普段は閉じています。食べ物は気管の前で左右に分かれて食道に送られます。うつむきかげんで食事をすると誤嚥しやすくなります。
また、片麻痺がある場合、麻痺側に食べ物が停滞します。健常側(麻痺のない側)に頭を少し傾けて、介助する人も健常側から食事を運びます。すると自然に頭が健常側に傾きます。
次に、食べ物の形態ですが、食べやすいようにと細かく刻みがちですが、細かく刻んだ食べ物は口の中でまとまらず、喉に残留します。トロミをつけたりゼリー状にして口へ運びます。一口量を少なくし、口へ運ぶペースを落とします。ゆっくりとよく噛んで食べるよう工夫します。リラックスして食事ができるよう環境を整えることも大切です。緊張した場面では、唾液の分泌が少なくなります。
Q最後に......。
A嚥下という字は、口の横に燕という字を書きます。じつは英語でも飲み込むことをswallowingといい、swallowは燕です。今ちょうど燕の子育ての時期ですが、こどもの燕が大きな口をあけて餌を待っている姿はまさに飲み込む動作を連想させます。高齢者にとって、いつまでも家族と一緒に同じメニューを食べられることは本当に幸せなことと思いますので、嚥下障害の疑いがある場合は、早めにかかりつけの先生に相談してみて下さい。
日本歯科医師会のホームページを見ると、無料でだれでも見られるお口のトレーニングの動画があります。ダウンロードして保存し、何度も見ることができます。ぜひ利用してみて下さい。
Q認知症と口の中の手入れってどのようにつながるのでしょうか?
A認知症患者の場合、病気の影響で口の中の手入れが極端に疎かになってしまいます。歯ブラシを手に、一見、歯を磨いているような動作をしていても、実際には歯をきちんと磨くことができないことが多いのです。入れ歯の手入れも不十分になりがちです。
Q口の中が不衛生だと、どうなるのでしょう?
A唾液や飲食物が誤って気管に入ったとき、口の中にある歯周病菌をはじめ、様々な菌が一緒に肺に入り込んでしまいます。抵抗力の弱い高齢者は肺炎を起こしてしまいます。
Q歯周病菌が肺炎を引き起こすというのは意外ですね。
A抵抗力が強くない高齢者にとっては、日常生活で最も注意するべき病気です。
◎認知症になった場合に重要な口腔ケアのポイントを事前に伺っています。ひとつずつ紹介しましょう。
まずは1つめ。"認知症と診断されたら、まずは歯医者さんへ"
A認知症が進み、歯科医院で検査や診療を受けていることへの認知ができなくなってくると、口を開くことを拒むなどして、治療が難しくなることが多いのです。
Q認知症が進行するまでに対策を立てることが大事ですね?
A認知症の進行を念頭に置いて日々の歯磨きを始めとする口腔ケアや、栄養の摂取方法などを考えて下さい。
◎2つめは、"日々のケアこそ大切。プロに依存するだけではダメ。"
A歯周病の場合、心臓病のリスクが健康な人よりも2倍高くなるといわれています。例えば、週に1度は歯科医師に診てもらっているから大丈夫ではなく、日々、毎食後にきちんと歯を磨くことが、死にいたる危険を減らすのです。
◎3つめのポイントは、"認知症がひどい場合は、入れ歯の使用を慎重に"。
Aいわゆる「総入れ歯」のような大きなサイズであっても、飲み込んでしまう場合があります。なるべく単純な構造の入れ歯にしたり、入れ歯の使用を中止したりと、認知症の進行状況に合わせて管理していく必要があるでしょう。
◎総入れ歯でも飲み込んでしまうということは、ちょっとした差し歯も注意が必要ですよね。
4つめのポイントは"インプラントの使用中止を検討する"。インプラントって、人工の歯の根っこを埋め込むというものですよね?認知症の場合は使わない方がいいのですか?
A直に顎の骨に埋め込むインプラントの場合、健康な人でも定期的な歯科診断と専門家によるクリーニングが不可欠です。認知症と診断された場合、有害な菌やウイルスの感染リスクを減らすために、埋め込んであるインプラントにねじ留めしてある入れ歯を外す選択肢も考慮した方がいいでしょう。
Q認知症が進行する前に、口の中の手入れの重要性を知っておく必要がありそうですね。
A定年退職を迎えたら、夫婦でお互いに膝枕をして、相手の歯を磨いてみて下さい。人に歯を磨いてもらう怖さや、逆に人の歯を磨く難しさを一度実感することで、口腔ケアが簡単ではないことを認識しておいてもらえればと思います。

若い人でも、ちょっと歯が痛かったりすれば痛い歯をかばって反対側で噛もうとしたときに相当の不便さを感じることがあると思いますが、その程度で若い人の体力が急激に衰えたりはしません。しかし高齢者では自分の口から噛んで食物をとれない状況はある意味緊急事態です。どうしてそうなのか?その対策にはどうすればいいのでしょうか?

  1. 噛めない危険信号
    人間の体の細胞は60兆個といわれますが、毎日2兆の細胞が代謝され入れ替わっています。この細胞の入れ替わり速度は若い人にくらべ老人は遅くなります。細胞のもとは食事から摂取するわけですから、飢餓状態に陥れば新しい細胞をつくる材料がなくなり最後には命を落とすことになります。高齢者が噛めなくなると急速に体力や筋力が衰え歩けなくなったり、食品を飲み込めなくなるなど危険な低栄養状態に追い込まれます。
  2. 噛むことの効果
    噛むことで顎の骨や筋肉が働いて血液の循環がよくなり脳内の血流量も増加します。結果として脳細胞も刺激され運動能力や生理機能も向上します。プロ野球選手がガムを噛んでプレーするのもこのためです。高齢になっても噛む機能が維持されることで転倒骨折や認知症やうつ状態などを予防する効果があります。また、噛むことで唾液の量も維持され抗癌作用や免疫力の増強も期待できます。
  3. 高齢になっても噛めるためには
    80歳になっても20本以上歯を残して自分の歯で噛めるようにという8020運動で推奨されるように若い時からの管理が必要ですが、8020達成者は年々増加傾向にあります。その一方で多くの歯を失ってしまった高齢者の方も少なくありません。噛めるようにすることは歯科医療の究極の目標といっても過言ではありません。老いも若きも健康長寿のために歯科医院で定期メインテナンスを受けましょう。

高齢者のむし歯として特徴的に見られることは、歯の根(歯のつけ根)の部分のむし歯です。若いうちは、歯の根の部分が露出する事はあまりありませんが、高齢者になると、歯肉が退縮し、歯の根の部分が口の中に露出する事が多くなります。根の部分は歯の質が柔らかく、元来むし歯になりやすい場所なのですが、年齢ととともに唾液の減少や歯ブラシの不足、磨きづらさなどが相まって、むし歯の進行を早めてしまうのです。こうしたむし歯は、多くの歯に同時にできることが多く、歯の神経も感覚が鈍くなっていることから、相当進行しても症状があまり現れません。気がついた時には歯が折れてしまったということも多くなるのです。これを予防するためにも、定期的に歯医者さんにチェックしてもらいましょう。

高齢者の特徴として血圧や心臓の状態、糖尿病といった全身に関わる病気を有していることが多いことです。そうした病気がないとしても、体力や体の抵抗力が低下し、わずかなことで体に変調をきたすため、注意が必要です。歯科治療中に少しでも具合が悪く感じた場合は早めに歯医者さんにお伝えください。口の中の特徴としは唾液が少なくなり、歯肉が退縮して根が露出することが多くなることがあげられます。また歯ブラシも十分にしにくくなるため、むし歯ができやすくなります。従って、口の中の手入れを十分に行っていくことが歯科治療の大きな柱となってきます。現在の状態をできるだけ悪くさせないための治療を中心に、より快適に暮らせるように治療方針を立てますので、是非歯医者さんにご相談ください。